私を見つける
命の部屋で、広人は、制作者、田中凌太と出会う。
「残されたのか」
おれは、写真に映る自分を見つめた。
「拓真」
写真の裏面には、そう書かれていた。
「広人」
おれを呼んだのは、写真の少年、拓真だった。
たった今、彼は命の部屋から帰ってきたのだ。
手には、壊れたカメラを握っている。
「同じ景色も繰り返せば、また違って見えるの」
「緑」
彼女は、おれの肩を借りる、拓真と、おれをフレームに収めるようにした。
「命の部屋から、帰って来たのね」
「静希」
「この世界は、私たちは繰り返すしかないの」
おれは、肌身離さず持っていたこの写真の意味をうっすらと分かり始めた。
「拓真。お前は、なんでここに帰って来たんだ」
「なんで、か」
拓真は、一つ息をつくと答えた。
「復讐するためだ」
「復讐。誰にだ」
「うまく行かなかった、自分にな」
おれは、知っていた。
その言葉の意味を本当に理解したとき、彼とは、共にいられなくなることを。
「こんなこと、繰り返さなければ」
私は、首にかけたひもを千切って、緑の硬貨を握りしめた。
「こんなものなければ」
緑の硬貨が、浅く張った水面に触れた時、私の意識は遠のいた。
「あなたは」
ここが、命の部屋だと直感で分かった。
「私は、リタリア。永遠の命の神」
「緑、よろしく」
「一度きりしかない人生を失った日、私とあなたは出会う」
彼女は、日にちを数えるように花を植えていた。
「私は、あなたの愛する者に殺してもらうことになる」
彼女の側には、白い液体のついたビンが置いてあった。
「同じことは、繰り返さない」
私は、リタリアが次に言う言葉を知っていた。
「同じ景色も繰り返せば、また違って見えるの」
燃える写真のように、私の記憶は消えていく。
目覚めた瞬間、私は、自分の人生は、彼が握っていることを知った。
「霊薬」
「緑」
「広人」
彼の手に握られていたのは、リタリアの飲んだビンだった。
ただ、それは未使用となっていた。
「響は、何をしたんだ」
「すべてを知るのは恐ろしいことよ」
命の部屋はまだ開いたままだった。
「私がいたのは、終わりの部屋」
「命の部屋で何が起きたんだ」
「命の部屋にいたのは、太陽神リタ。彼女は永遠の命を得た。私の霊薬を使って」
「どういうことだ」
「私は鎌で彼女を切った。庭で」
「庭」
「私にとって、命の部屋は終わりを表すものよ」
命の部屋は、徐々に勢いを強めていく。
「このままでは」
「すべての過ちを正していく」
白衣を脱いだ。彼女は革でできた黒い戦闘用の短いズボンをはいていた。
「青い硬貨。もっときれいに見えたらよかったのに」
彼女はサバイバルナイフの柄を握った。こちらへ一本を手渡した。
「行くわ」
「止めろ、静希。争う理由がない」
彼女は斜め上から切り下す。火花が散る。
「私たちの生きた意味。いくつも消えた命の果てにここにたどり着いたの」
「救いは命の部屋にあるんじゃないのか」
「記憶なんて確かじゃないものを信じて、あなたを失うのはいや。私たちの明日はどこへいくの」
「命の部屋へ行けば、おれたちはすべて始まる前に戻れるんじゃないのか」
「私たちは、命の部屋から抜け出せなくなったの」
「拓真が、帰ってきたじゃないか」
「もう私は覚えていない」
「覚えてない、どういうことだ」
「はじめはすべて覚えていた。でも、もう思い出せない。ここにいる理由も、生きてる証も。でも、これだけは分かる。ここにいるのは、あなたといたおかげよ。あなたが残りなさい」
「なにを言っているんだ」
彼女はサバイバルナイフを回転して投げる。
「クッ」
彼女は硬貨を取り出した。
「もっと一緒にいられたら。よかったのに。本当は知ってるのよ。誰もが自分の人生を生き
ている、何の関係もない」
「もう終わりなのか」
「色がないのよ、この世界には」
「おれが命の部屋へ行く。だからもうやめろ」
「私たちの生きた世界は美しかったはずなの」
青の硬貨を砕く。彼女は舞って見せた。
「生きた証よ。これが私の人生」
彼女は、見えない刀に手をかけた。彼女の手元には、青い光が集まっていく。
「あなたが来てくれて良かったわ。戦う理由ができた」
「もう、止められないのか」
彼女は右手を振りぬいた。
「残月」
おれは彼女の攻撃を受け止める。湖に衝撃が走る。命の部屋は閉じた。
「あなたが決めるの、広人」
彼女はそう言うと、意識を失った。
「静希」
彼は命の木の前にいた。
「勝也」
「おれは、一人の負けた人間だ」
彼は下を向き言った。拳には力が入っていた。
「どうして、お前がここにいるかわかるか」
「なぜだ」
「命の部屋でお前を止めてやるべきだったからだ、広人」
「止める」
「お前がこうなってしまったのはおれのせいだ」
「そうか」
「だから今、おれは命の部屋に行こうとしてるお前を止める」
「もう争う必要はないんじゃないのか」
彼は静かに首を横に振る。
「思い出すのは焦燥。取り残されたからだ」
「それが、命の部屋へ行く理由か」
「これがおれたちの命の部屋だ」
彼は腰を落とすと、叫んだ。
「瞬間突破」
おれは静希の構えていたサバイバルナイフを構える。彼はお構いなしに殴ってくる。
「突破、突破、突破」
「開け。命の部屋」
「お前は緑を置いて、命の部屋から去った」
「なにを言っている」
「おれは帰ろうとするお前を止めることができなかった。だから今日は止める」
彼の体からは、上記が立ちのぼり、雨雲になる。
「突破」
彼は走り出し、右手を振りぬいた。猛火が近づく。間に合わない。
「守」
そこには、燃えた守の体が転がっていた。
「いけなかったか」
命の部屋は開かない。
「これで最後だ」
「ああ」
「行くぞ」
彼は自分の霊薬をすぐに引き抜くと、頭から被り、顔を振った。
「瞬間、突破」
おれは彼と同じく走り出す。
「おれの勝ちだ」
勝也の腕は、胸にまで貫通する。意識が薄れる。おれは倒れる。
「今日が命の日だ」
おれは倒れながら見つめる。そこには命の部屋が開いた。
「お前が行くんだ」
彼はおれに肩をかし、運ぼうとする。彼が力なく倒れると同時に、おれは水面へと倒れる。
「突き動かすのは俺じゃねえ。お前だ。そこにいるべきなのはお前だ」
「霊薬を使ってしまったはずだ、勝也」
「守」
守は勝也を切りつけた。彼は倒れる。
「死に目に会えて良かったぜ、じゃあな」
彼は地を這い。命の部屋へ入った。
「勝也」
緑は、閉じた命の部屋を見つめて言った。
「墓」
そうか、こういう気持ちだったのか。おれは分からずに墓をたてていたことにようやく気付いた。
「名前はない。おれはここに残れるはずがないんだ」
彼は、胸元から紙を取り出した。それは、命の部屋から帰ってきた瞬間、彼が受け取った紙だった。
「生きた証だ」
拓真。そこにはそうとだけ書いてあった。
「だからこうしたんだ」
彼は紙を引き裂いた。
「自分の名前」
「残されたのは、お前か。広人」
「命の部屋へ行く意味は」
「すべてに意味なんてないんだ」
「いったい、命の部屋とは何なんだ」
「おれ達の残された場所だ」
「お前が命の部屋へ戻るのは」
「言ったろ。おれは後悔を晴らす。自分にな。そのために帰ってきた」
「お前は一人で命の部屋へ行ったのか」
「おれはお前が懐かしい」
「どういうことだ」
「そんな笑顔で笑え日があると思うと、怒りが止まらない」
「止めろ」
「なにをしてたんだ。お前には覚悟がない。おれの背負ったもんを見せてやる」
おれはまだ彼と戦う覚悟が決まらずにいた。
「お前は誤解している」
「すべてを変える」
「今日が、命の日じゃない」
今日が最後の日となる。しかし、それは始まりでも終わりでもない。
「おれたちは生きているんだ」
命の続きを知りたかった。おれはすべてを知るために駆け出した。見たこともない景色を求めて。
「おれはすべて背負う。帰れる日まで」
「今日が最後なはずがないだろ」
「いいや、今日が最後だ」
彼は距離を取った。
「いつかは変わる」
「それはそういう意味じゃない」
「もう、ためらう必要はない」
そのときには、すでに勝也との戦いで受けた傷は治っていた。
「お前に教えたかったんだ」
「拓真、なにをするんだ」
「思い出せるか昨日のこと」
「思い出せない」
「それでも残されたんだ」
「なら、命の部屋に行くしかない」
拓真は、黒い霊薬を取り出す。
「あの時、拾ってくれただろ」
残された一つの霊薬は、おれが拾ったものだった。
「描きたい未来もない。いつかは自分もいなくなるんだ」
彼は覚悟を決めた。
「いまここで命を使い果たすよ、広人」
彼は、黒い霊薬を湖に溶かした。水面と霊薬との間で、発火が起こり、命の木は燃える。
「霊薬。これはおれたちの過ち」
「拓真、最後の望みはなんだ」
「会いたいんだ、彼に。未来の約束なんだ。何してるんだろうな」
拓真は首をかしげて微笑んだ。
「生きて会えればそれでいい」
彼に合わせて、息を吸う。
「さて」
ふうと息を吐いた。
「残されたんだ」
おれたちはどれだけのことを覚えていられるか。それは決して多くない。そして残されたこ
と。それは命を繋ぎ止めたということ。
「残してくれたのは、お前だったのか」
彼はこの機会を逃さないために帰ってきた。
「いつかは変わる」
おれは言った。彼は走り出した。
「おれが帰るには」
戦うしかない。
「今日、お前は死なないんだ」
おれは彼を抱きとめた。
「広人」
拓真は、驚いていた。
「今日は、命の日じゃないんだ」
「広人」
「最後の日になったね」
「緑」
「今日は、命の日じゃなかったの」
彼女がそう言うと、命の部屋は開いた。
「お前が命の部屋へ行け」
「お前たちは、どうするんだ」
「おれたちはここに残る」
幹の折れる音がすると、命の木は傾き始めた。
「人生は思い出すためにあるのかもな」
「止めろ」
「おれは霊薬を使っている。お前が、命の部屋に行けよ」
「おれが、いくのか」
「おれにはできなかったことだ」
命の部屋から帰り、もう一度正しい選択をする。長い繰り返しの中、おれは彼と一つにな
る。
「おまえにとって、人生はなんだったんだ」
「生きることだ」
人生、始まりを待っていた。
「おれは、帰ってくる。お前と出会うまで」
彼は倒れていた。
「ここは、おれたちの命の部屋、人生になったんだ。ありがとうな、広人」
「すべて変えてやる」
おれは命の部屋への扉をくぐった。おれは死ではないと思った。それは生でもなかった。
「生きてんだ」
まだ変えられる。おれは命の部屋へ入る。
「いつかは変わる」
今日は、命の日ではなかった。
命の部屋で、広人は、制作者、田中凌太と出会う。
何から守りたいか
緑:嘘 拓真が嘘じゃないかという疑念 特徴色 緑
静希:母親としての自覚 特徴色 青
愛:嘘 拓真の嘘 特徴色 赤
おれは、ここで生まれたっていうのか。
あなた、何言ってるの。命の庭にいたのは、私。
緑、もういいの。
何が。
どういうこと。
愛は、言った。
それで、どういうことなの。ここに来たのは、私じゃなくて、拓真よ。
いいんだ、愛。これに関与したのは、おれだ。
どういうこと。
いいか。混乱するな、緑は騙されている。ここは、おれたちが作ったもんだ。
命の部屋、かしらね。
そういうこと。
じゃあ、私たちは、この世界の広さを知った。それでいいと思うの。
はあ、何言って。
だって、そうでしょ。拓真、ここは、カスケードシステム。あなたの、右腕に埋め込まれたもの。
どういうことだよ。
ユーティリティデバイス。持って、逃げて。
おう。
じゃあ、緑。始めましょう。
ええ。
来たわね。
霊薬は
私の手
久しぶりだな。ここに来たのは
勝頼(アンドレ)
馬岩。